ジャハーンは、けっこう人の気配に敏感な方だと思う。 ぐっすり寝てても、誰かが来て部屋に入ってくるとパチッと目が開く。眠りが浅いってわけでもないんだろうけど、王っていうある種の緊張感がそうさせるのかもしれない。 はじめの頃は、一緒に寝ていても俺が起きるとジャハーンも目を覚ましていた。だけど何ヶ月経った頃からかな、俺の存在に慣れたっていうことなのか、俺が声を掛けたり身体を軽く揺すったりしても、ちょっとやそっとじゃ起きなくなった。他の人がそうしたらすぐ起きるから、もしかして狸寝入りかとも思ったんだけど、やっぱり本当に眠っているみたいだ。 だから、こんなこともできるわけで……。 「ジャハーン……ジャハーン。起きて」 俺は何度も彼の名前を呼んだ。最初は反応がなかったけど、だんだん眠りの淵から浮き上がってきたのか、言葉にならないうめき声のようなものを上げてから、遂にジャハーンはうっすらと目を開けた。 そして、俺の姿を見てからぎょっとしたように目を見開いて、慌てて起き上がろうとしてそれが出来ないことに気がつく。 そう、腕が縛られて、寝台に括り付けられているのだ。 俺はジャハーンと目を合わせてからニッコリ笑って、危険はないんだよということを知らせてあげる。というのもアマシスの指示通りなわけだけど。 ジャハーンは少し肩の力を抜いたみたいだけど、それでもわけがわからないという顔をしていた。 「なんだ、一体何が起こっている? この腕は誰がやった? それに、潤……そ、その恰好は……」 ジャハーンがうろたえるのも無理はない。 俺だって初めてこの衣装を見たときは相当うろたえた。 ……と言っても、初めてこの世界に来たあの日、俺にこの衣装を着させるよう指示したのは紛れもないジャハーン自身だけどな! そう、あの時によく似た、スケスケのエロエロネグリジェ(?)を俺は着ていた。だけどスケスケ具合が部分によって微妙に違くて、乳首とか足の辺りなんかはかなり透けて見えるけど、ちょうど腰のあたりはうっすら見えるかな程度のチラリズム加減だ。ここまでやるか? と正直思わなくもないけど、これも全てエロ師匠の教えなのだ。 「なあ、ジャハーン」 「な、なんだ」 「俺達って、結婚5周年だよな」 「そうだ」 「俺の住んでたところではね、そういう記念日には旦那さんからお嫁さんに贈り物をするんだ」 「贈り物?」 「そう。花とか、アクセサリーとか、旅行とか」 「なんだ、何が欲しい? 早く言えば良いものを」 会話をする間にも、ジャハーンのギラギラした目が俺の身体を食い入るように見つめている。 「まあ俺だって男だし、花とかもらってもそんなに嬉しくないからな。だから……」 「だから?」 「あんたをもらおうと思ってさ」 ここで再びにっこり。 ジャハーンがごくんと唾を飲み込んだ。 「それは、どういう……」 「まあ、なんつーか、いわゆる夜の主導権っていうか? でも俺から仕掛けても、すぐにジャハーンが主導権持ってっちゃうからさ。悪いけど一応縛らせてもらったって感じで。でも、腕は痛くないだろ?」 「縛らせてもらったって……潤、話に繋がりがないが」 「え? 腕痛い?」 「いや、痛くはない」 「だったらいいじゃん」 俺は早速、ジャハーンの服を脱がしにかかった。と言っても、寝る時は腰履き一枚だからあっと言う間だ。 ジャハーンの一人息子は、元気に朝勃ちをしていた。と言ってもまだ太陽が昇る前だからか、半勃ちくらいだけど。 俺は慰めるようにそっとやさしくそれを撫ぜてやる。すると、みるみるうちに固く大きくなり始めた。 「じ……潤っ」 ある程度の固さになってから、俺はおもむろに自分の息子にも手を伸ばした。ジャハーンに見せ付けるように、でも飽くまでもギリギリ透ける程度の服の下で。 ジャハーンのしっかりとした喉仏が、せわしなく上下する。 猛るジャハーンのそれを前に、俺のものも熱くなった。 こいつがいつもそうするみたいに先端を軽く揉むと、抑えきれない声がこぼれ出した。 「あ……ジャハーン」 「なっ……何を、何をしている!? 潤、自分でせずとも私がいつでもしてやるというのに! は、早くこちらへ来い!」 「んっ……駄目、だって。今日はあんたの命令は聞かない。俺が好きなようにするんだ」 「潤」 名前を呼ぶジャハーンを無視して、俺は腰を落とし、ジャハーンと俺の固くなったものを擦り合わせた。 ぬるぬるし始めた先っぽが滑ってうまくいかないけど、それがまた興奮を高めていく。 「ジャハーン……逃げるなって」 「逃げてなどおらぬ! この腕をほどいたなら、今すぐ息が出来ぬほどそなたを抱き締めてやるというのに……」 「だから、抱き締めるのは今日は俺の役目なんだってば」 俺はにこっと笑いながら、ジャハーンの固い腹筋の上にまたがり、そのまま身体を倒してジャハーンを抱き締めた。 ジャハーンがまた低く呻く。 「重いか?」 「そのようなことがあるわけがないであろう。お前は私の嫁だぞ」 「嫁だから重くないっていうのも変な理屈だけど……まぁ平気ならいっか」 大丈夫そうなので、その姿勢のままキスをする。 すると途端にジャハーンの舌が伸びてきて、溺れかけている人みたいに俺の舌を絡め取ろうとした。 やっぱり余裕がないのか、いつもより激しいキスに、俺は先に音を上げた。 「ぷはっ……危ないとこだった」 「潤、行くな。ここへ戻って来い」 「んな、大げさな……キスはまたあとでな。とりあえず、今は俺のやりたいことをやるんだから」 「何だ、やりたいこととは。こんなことをせずとも、普段から言えば良いものを」 「まあそりゃそうなんだけどさ。一応男のロマンってやつで」 「ロマンだと?」 ジャハーンが困り果てたような声を出すのがおかしい。 俺の言ってる意味がよくわからないんだろうな。 まあ、五年前まで都内の高校生だった俺と、子供の頃から王になるべく育てられたジャハーンとでは、こういう価値観が違ってて当たり前なんだけど。 とりあえず、俺は早速次のターゲットに取り掛かることにした。 もともと色黒なんだろうけど、こんがり日焼けしたジャハーンの肌の中で、乳首の辺りはさらに黒い。そっと探るように舐めると、ぽやぽやと生えた毛があるのがわかった。男の乳首なんて小さいものだけど、ジャハーンのそれは更に小さいような気がする。わずかな突起がチョロッと出ているだけだ。うーん、普通こういうものなのかな。俺のはもうちょっと大きいんだけど……まぁ色も違うし、そもそも人種も違うんだし、こういうのって人それぞれだもんな。別に俺が変なわけじゃないよな。 想像とちょっと違っていたので、何とか大きくできないかと、色々やってみる。舐めたり、ちょっと歯を当ててみたり、チュウッて吸ってみたり……。 キスを落としながら、首筋の辺りまで移動していく。 耳の下辺りを舌でくすぐると、ジャハーンが甘い溜息を漏らしたのが聞こえた。 感じてる? そう思うと嬉しくて、何だかゾクゾクしてくる。 たくましい身体に唇を這わせながら、俺は寝台の横のテーブルから用意しておいた香油の瓶を取り、たっぷりと手に油を垂らした。使い慣れたそれで、自分の後ろをほぐし始める。 昨日もエッチしたから、比較的すんなり指が入っていった。ていうか四日連続でしてたから、あんま慣らさなくてもいいんだけど……余裕で三本の指が入っていく。だけどジャハーンの節張った長い指と違って、何だか全然物足りなくて――。 「あっ……ジャハーン……早くっ……」 思わずいつものようにねだってしまってから、今日は自分が責める番なんだと気がついた。慌ててジャハーンの準備をしようと息子さんに唇を持っていくと、そこはもう最高マックスで準備万端になっていた。 それで何か、また俺は感じてしまって……。 「あぁ……すごいっ……」 わけがわからなくなってきて、変なことを口走ってしまう。 自分の指じゃ満たされないのに、このもどかしい状況にありえないほど感じてしまう。ガチガチに固くなったジャハーンのそれに頬を擦りつけながら、さらにもう一本指を追加しようとした時――。 「うぉおおおおおおッ!!」 ぶちぶちぶちぶちぶちぃぃぃいいいッ!!! 「…………へ?」 何か動物園の肉食獣ゾーンみたいな咆哮と、ぶっとい何かがぶち切れる音がした。 何だかもの凄い恐ろしいことが起こっているような気がして、そ〜っと顔を上げてみると……そこにはライオンが居た。 しかも、発情しきってメラメラ炎を背後に燃やしている(幻覚だよな?)ライオンが……。 「あ、えーと……あ、あの〜……ジャハーンさん?」 名前を呼んでも、ふーふーと荒い息を吐くだけで返事が返ってこない。 っていうか、こいつ、あの太い縄を腕力だけで引きちぎったのか? ……ヤバイ、これってひょっとしてめちゃくちゃピンチってやつだったりして……。 ジャハーンはギラッと目を光らせると(だから、これって幻覚だよな?)それこそ獣のように俺に飛び掛ってきた。もちろん俺はひとたまりもなくコロンと押し倒されてしまう。 そのまま固くて熱いジャハーンの雄が俺の中に捻じ込まれてきて、息をつく間もなく激しく揺さぶられる。 「あぁっ……! ジャ、ジャハーン、待ってっ、あっ、あっ、あっ……!!」 「潤、潤、潤ッ、潤ッッ!!!」 「ごめんっ、ごめんって! 謝るからっ、あっ、たの、頼むっ、ちょっ、と、待っ……あっ、ああぁ〜〜〜ッ!!」 もうそれからは、記憶が曖昧だった。 ひたすら名前を呼ばれながら激しく揺さぶられては、何度も何度も身体の中に射精されて……一体自分が何回イッたのかも覚えていない。 もちろん次の日は、一日起き上がれなくて……。 とりあえず今回学んだのは一つ。 もう二度とアマシスの言う事は鵜呑みにしないこと……それだけだ。 ……まあ、また五年後くらいになったら、わかんないけどな。 おわりv →TOP |