宮殿に帰って、久しぶりにジャハーンとウセルとラダメスと一緒に昼食を摂ることにした。
 ピピはいないけど、今はアマシスが食事の世話をしてくれる。
 色々変態じみたことを口走るのが何だけど、ジャハーンと子供達の前ではさすがにおとなしくしているので、至ってほのぼのした気分で食事ができた。
「本日はどのような公務があったのですか、母上?」
 この頃しっかりしてきたラダメスがきらきらした目で聞いてくる。
「うん、今日は神殿の視察に行ってきたよ。ポティノスとリシクに話を聞いてきた」
「あの神殿は、かつてない規模のものだと伺っています。さぞかし立派なことでしょう」
 まだまだ子供なんだと思うんだけど、こういう時のウセルはジャハーンを小さくしたみたいだ。
 視線がぎらっとして鋭いのに、堂々としている感じがすごく似ている。やっぱり親子なんだなあ。
「うん、前見た時よりすごくなってたよ。それに、俺達の彫像も造られていたんだ」
「わぁ、どんな?」
 子供らしい好奇心を見せながらも、既にはしゃぎすぎない分別を持ち始めたラダメス。
「私も聞きたい」
 無邪気なようでいて、落ち着いた声を出すウセル。
「うん、何て言うのか……王と王妃の像っていうか、夫婦像っていうのか、壁に面していてとにかく大きくて迫力あるんだけど、怖い感じはしないよ」
 応える俺の言葉が幼稚すぎて、ちょっと情けないんだけど……まぁ、仕方がない。王妃になったからって、いきなり頭が良くなるわけでもないし。
「完成が楽しみですね」
「早く私も見てみたいです」
「えー、なんか、照れるな」
 照れ笑いをする俺に、ジャハーンが呆れた顔をしてみせる。
「何を羞じらうことがある。おかしな奴だな」
「だってさ……」
 やっぱ、この感覚は王族育ちにはわかんないのかな。庶民とは掛け離れてるもんな、こいつら。
「あ、そーいえばさ、さっきポティノス達としゃべってただろう。ジャハーン」
「よく見ておるな」
 ジャハーンが苦笑した。
「なんかコソコソしてなかった? いちゃもんつけてたんじゃないだろうな」
「ひどいことを申す妻だ。未だ完成しておらぬとは言え、あれだけの出来のものに不満があろう筈もない」
「じゃあ、何話してたんだよ」
「うむ……」
 ジャハーンは腕を組んで、ちらりと子供達を見た。
「ウセル、ラダメス、耳をふさいでいよ」
「えっ……」
「かしこまりました、父上。さあ、ラダメス」
「は、はい。父上、兄上」
 二人がしっかり両手で耳を塞いでから、ジャハーンは俺の耳元に口を近づけた。
「手を……な」
「手?」
「つなぐようにと、申しつけたのだ」
「つなぐって、誰が」
「だから、私とお前だ」
「へ?」
 何のこっちゃと思ってジャハーンを見上げると、ちょっと照れくさそうな、得意そうな表情をしていた。
「私達の彫像のことだ」
「って……」
 え、まさか。
「手をつないだ像にするってこと?」
「うむ……嫌か」
 俺は絶句した。
 だんだんと、嬉しい気持ちが湧いてくる。
「ジャハーン……」
「お前は手を繋ぐのが好きだからな……もちろん、私もお前と触れ合うのは大いに好むところだ。あのような大きな彫像とは言え、手を繋ぐくらいであれば構わんだろう」
「……うん」
 嬉しくて、でもやっぱり照れくさくて、何か笑ってしまった。
 そんなラブラブなの造ってもらっちゃっていいのかな。寒すぎないかな。
 でも……こいつがそう望んだって言うのが、めちゃくちゃ嬉しい。
「ありがと……」
「何を言う」
 ジャハーンも笑っていた。
「私に礼を言うようなことではない。二人のものなのだからな」
「うん、だけど、嬉しくてさ」
「お前が嬉しいのなら、私もこれ以上ない喜びだ」
 そのまま顔を寄せてキスをしようとして、子供達の目がまん丸になっているのに気が付いた。
 わっ、やばっ! 
 慌てる俺を尻目に、ジャハーンが咳払いをした。すると、子供達が耳に当てていた手をサッと目許に移した。
 いいのかなー……。
 と思いつつも、これでどうだと言わんばかりのジャハーンの顔がおかしくて、俺達も目を閉じてキスを交わしたのだった。



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