ある王宮の一日 その後 〜FOR mayumiさま〜 ☆本文の前に、こっちを読んでくださいね→ある王宮の一日 ここ数日、王宮では悲壮なまでの緊迫感が漂っていた。 特に太陽王の側に侍る者にとっては、それこそ胃の痛い毎日である。 王国随一の知識と卓越した技術の持ち主、薬師ミケノリスや、側近であるムスタファ将軍をはじめとする面々は、苦渋に満ちた王の尊顔を拝謁し、ああ昨夜も駄目であったかと力なく肩を落とした。 ミケノリスは今日こそは己の首が飛ぶかもしれぬと、恐々たる思いで床にひれ伏していた。 「……顔を上げるが良い、ミケノリス」 平素は、威厳に満ちてこれぞ王者よと頼もしく思っていた王の御声であったが、今日ばかりは冥界からの呼びかけの如くに聞こえる。ミケノリスは目の前が暗くなるのを感じた。 「聞こえなかったのか。顔を上げよ」 まるで瘧にかかったかのように震える両手に力を入れて、ミケノリスはゆっくりと顔を上げた。 「お前の調合した薬を塗り始めて、早三日が経つが、一向に良くなる兆候がない」 ああ、もはやこれまで。 ミケノリスは目を閉じた。 これまでの薬師としての経験と誇りにかけて、命を注ぎ込む思いで調合した軟膏であった。出来得る限りのことはしたつもりだが、力が及ばなかったようである。 周囲に控えた者達も、皆哀れみの眼差しで以ってこの老薬師を見つめた。 だが、死の宣告を告げるかに思われた王の唇は、意外な言葉を吐き出された。 「こうなっては、薬効が表れるのを待つよりも、他の手段を考えた方が早いのではないか」 「……は?」 思わず間の抜けた声を発し、王の尊顔を仰いだ。 その表情は依然苦々しく、焦りの色を濃くにじませてはいたが、それ程お怒りではないようであった。 一体どうなっているのか。 呆然とするミケノリスにはかまわず、王は苛立ったように言葉を重ねられた。 「とにかく、王妃が痛がらなければそれで良い。何ぞ良い手段はないか?」 「あ……お、王、申し訳ございませぬ! わたくしの力が至らぬばかりに……お、お許しくださいとは申しませぬ。ですがせめて家族だけは……っ」 「なに? 一体何を申しておる」 ブルブルと震えながら再びひれ伏したミケノリスを、王は訝しげにご覧になった。 「ああ……そういうことか。案ずるな、お前を罰することはせん」 「えっ……!! ま、まことでございますか!?」 ミケノリスは己の耳を疑った。 「これで悪化したのであれば罰することもあろうが、そうではあるまい。確かに腹立たしい結果ではあるが……それに、軽々しく人を罰することは、王妃が好まぬのでな」 「み、神子が……?」 王は苦笑しつつ頷かれた。 「そうだ。もしここで私がお前を死刑にしたとして、それが潤にばれてみろ。そうなれば、あれは私の床入りを許さぬばかりか、怒り狂って離婚、いや神々の国に帰るとまで言い出しかねん」 そうなっては私は生きては行けぬからなあ、と笑いながら語られる王を、ミケノリスを含め周囲の面々は呆気にとられて見つめた。どうやら己の知るかつての王とは、何かが決定的に違うようである。これも全て王妃である神子のお力ゆえか。 「そういうわけでな、話を戻すぞ」 「あ、は、はいっ、神子に痛みを与えず、床を共にする手段でございますね」 「そうだ。薬にばかり限らず、何か良い案があったら申してみよ」 「……恐れながら、王」 「なんだ、ムスタファ」 恭しく一礼してから、静々と将軍が進み出た。 「神子が痛がられるというのであれば、その一面だけ触れぬようにすれば良いのでは?」 「何を言っている。触れずしてどうやって潤を愛するというのだ」 「ですから……つまり」 ムスタファ将軍は、コホンと咳払いをしてから、至って真剣な面持ちで語った。 「奥まで入れなければ、痛みはないのでは?」 王は成る程な、と相槌を打たれた。 「つまり、浅い抜き差しであれば、毛が触れぬから良いと申すのだな?」 「御意にございます」 「しかしなあ……それは容易ではないぞ、ムスタファ。何しろ潤に一度触れれば、我を忘れてしまうことも少なくないのだからな。それに私が浅くしたところで、潤が深い結合を求めたのであれば、それを拒むのは不可能だ」 「……さようでございますか」 眉を寄せて俯き、将軍は再び思案に耽った。 「それでは、王、このような手立てはいかがでしょうか?」 「よし、ミケノリス、申してみよ」 「はい。毛が触れるから痛みを覚えるのですから、毛を覆ってしまえば良いのではないでしょうか」 「毛を覆う?」 「さようでございます。毛を布で覆い、王の御一物のみが外に出るように工夫するのです」 「案としては悪くないが……それでは少々見栄えが悪くないか」 「上質の布をご用意致します。それに、宝石などを飾れば見た目にも煌びやかで美しいかと思われます」 「それはいかん。あれは華美なものを好まぬからな」 「あ……そういえば、神子は慎ましやかな御気質でいらっしゃいましたね」 ミケノリスは顎に手をあて、ウームと唸った。 その様子を見ていた親衛隊の兵士らも、皆一様に頭を悩ませた。 その中でも一際若く、王の覚えもめでたいカリムが、思い切ったように進み出た。 「王」 「カリム、何か思いついたか」 「はっ。ですが……」 「遠慮はいらぬ、申せ」 「はっ。ミケノリス殿のご意見を伺って閃いたのですが……陰毛のカツラをつけたらいかがでしょうか?」 「何、カツラだと?」 「そうです。柔らかい毛で作ったものであれば、剛毛をうまく覆い隠せると思うのですが」 「なるほど……それは中々よい案だ。毛皮で作ればフサフサして心地よいかもしれぬな」 いたく興味を示されたご様子の王であったが、ムスタファはううむ、と唸ってから口を開いた。 「しかし、王。カツラでは、激しく運動したら外れてしまうのではありませぬか。それに頭皮とは違って、横から下にかけて生えているのですから、接着が困難と思われまする」 「……盲点だったな。良い案と思われたが」 「王、申し訳ございませぬ」 「良い、ご苦労であった、カリム。また何か閃いたら申すが良い」 「はっ」 カリムが一礼して元の位置に戻るのを見て、王は苦い溜息を吐かれた。 「なかなかうまく行かぬものだな。……やはりあやつの力を借りる以外にないか」 「王、どなたかお心当たりが?」 「ああ。甚だ不本意ではあるが、背に腹は代えらん。致し方あるまい。何しろこの手のことにかけては並々ならぬ知識を持つ男だからな……ゾーセル、あやつを連れてまいれ」 「はっ」 ゾーセル将軍が王の間を後にする姿を見ながら、カリムは不吉な予感が胸をよぎるのを感じた。 「……まさか……」 どうやら彼の予感は的中したようである。 ゾーセルに連れられて堂々とした様子でやって来たその男は、カリムに気がつくとニヤリと妖艶な微笑みを浮かべて見せる。視線を転じて優雅な仕草で王に一礼すると、何処か挑戦的な目つきで玉座の王を見上げた。 「わざわざのお呼び立て、一体何のご用件でしょうか?」 「……聞かずともわかっておろう、アマシス」 苦々しげな表情の王を面白そうに眺めて、アマシスはにっこりと微笑んだ。その笑顔はたとえその性質を知っていたとしても、思わず見とれてしまうほど愛らしかった。 「さて、僕には何のことかわかりかねますが……」 「アマシス! 貴様、王に向かって何たる不遜な態度を!」 見かねたムスタファが怒鳴るが、当の美少年はしれっとした様子で答えた。 「僕の主は神子です。ムスタファ殿こそ、口の利き方に気をつけたらいかがです」 「な、なにを……」 「ムスタファ、良い。口でこやつに勝てると思うな。……では、改めて言おう。潤が私の剃毛後の肌を痛がって、床を共にしようとはせんのだ。何ぞ良い案はないか?」 「なるほど……王は毛がこわくていらっしゃるから、神子の柔肌には少々負担をかけてしまうかもしれませんね。あのような状態になってしまうのでは、神子が閨を厭うのも無理はありません」 「な、何……っ? き、貴様、見たのかっ!」 「見たも何も、治療してさしあげたのですよ。たいそう不安がっておられましたから……真っ白な象牙色の肌が、熟れきった果実のように赤く染まっていて……フフ、ひどく敏感になっていらっしゃいましたねえ」 「こ、こ、この、淫乱がっ! 潤に何をしたっ!」 「お、王、落ち着かれませ!」 「ええいゾーセル、放せっ! 放さぬかっ!」 「な、なりませぬ! アマシス殿に何かあらば、神子が悲しまれるのですぞ!」 「クッ……わかっておるわッ! ええい、忌々しい」 王はお怒りがまだ収まらぬようではあったが、ゾーセル将軍の手を振り切り、荒々しく玉座に腰を落とされた。 少々意地悪が過ぎたかな、と口の中で呟いて、アマシスはクスリと微笑んだ。 「さて、神子との房事のことでしたね」 「……そうだ。お前ならば、何か心当たりがあるだろう」 「フフ、簡単なことですよ。下の口がダメなら、上の口があるじゃありませんか」 王はアマシスの意外な意見に、訝しげなお顔をなされた。 「なんだと?」 「上の口なら、そう深く入れることはできませんからね、好都合でしょう」 「確かにそうだが、それでは解決になっておらんではないか」 「何がですか? 男女ならともかく、男同士なのですから……秘所を使わなくとも行為は成り立ちます」 王を除いた一同は、それぞれ互いに顔を見合わせた。 確かに、そうかもしれない。 皆の顔にそう書いてあるようであった。 「潤のあの愛らしい唇に、私のものを咥えさせるというのか……あの小さな唇に!」 「そうです。神子の唇は柔らかく滑らかで、さぞ心地よいことでしょうね」 王を除いた一同は、再び顔を見合わせた。 そして無言のまま赤面すると、皆ウロウロと視線を彷徨わせながら顔を伏せてしまった。 「いや、そんなことはさせられん。第一、潤の口が裂けてしまったら困る」 「人の口というものは、小さく見えて案外開くものですよ。どんなに太いものでも、やってみると入ってしまいます」 「うむ……いや、いかん。神聖かつ高貴な神子に、奉仕などさせられぬ。それにそれでは、潤は心地よくはないからな」 「上の口も下の口も、大した違いはないじゃありませんか。神子も快くしてさしあげるのは、簡単なこと。お互いをお互いの口で愛し合えば良いんですから」 「お互いを?」 「つまり、咥えあいっこというやつですよ」 王は黄金の瞳を大きく開かれた。 どうやらその案がお気に召したようである。 「なるほどな……よし、やってみよう。ゾーセル、アマシスに褒美を取らせよ。一同、議論はこれまで。各々仕事に戻るが良い」 王の御声がかかり、それぞれが一礼をして王の間を出て行った。 中の数人が、少しばかり前屈みになって歩いていた理由は……不明である。 さて、一方の神子である。 暮れてゆく空を仰いでは、何やら切なそうな溜息をお吐きになっている。 ここ数日王の床入りを拒んでおられるせいだろう。 王にすっかり慣らされてしまわれた体は、無意識のうちにそのたくましさ、力強さを求めて疼きを起こしている。 純真無垢な神子とて、やはり身体は若き男だ……ということであろうか。 神子が自身の身体を両手できつく包み、何度目かの溜息を吐かれた時である。 「何をそんなに憂えている?」 「……ジャハーン! い、いつの間に?」 驚いている間にも、王は大股で部屋に入っていらして、神子の肢体を軽々と抱きかかえておしまいになった。 「あっ……や、嫌だっ。こら、降ろせよっ。言っただろ、ちゃんと生えるまではダメだって……」 「潤、そのようなむごいことを言ってくれるな。それまでお前に触れられぬとあらば、私は気が狂ってしまう」 「ジャ、ハーン……んんっ」 寝台にふわりと降ろされたかと思うと、王の熱き唇が間髪いれずに神子の言葉を奪い、翻弄してゆく。 「潤……潤……愛している。お前が欲しい」 「ん……ジャハー……ン、お、俺だって……その……(ごにょごにょ)…だ、だけど、ほんとに痛いんだって、あれ」 「潤、案ずるな。私がお前を傷つけるようなことをすると思っているのか」 「え、だけど……」 「今宵は他の方法をとることにした」 神子は澄んだ眼差しで、不思議そうに王を見つめられた。 「他の方法って?」 「つまり、今宵はお前のここは使わん。その代わりに、私がこの唇で……お前を……そして、お前が……その……何だ……」 「え? 何だって?」 「だからだな……つ、つまり……」 真っ赤な顔で口篭られる王を、神子は目を丸くしてご覧になった。確かに、滅多に見れる光景ではない。 「おい、あんたどうしたんだよ? 何か変なもんでも喰ったのか?」 「い、いや、そういうわけではない。よし、良いか。言うぞ」 「う、うん」 「私はお前の男根を唇で愛撫する。だから、お前も私のものを唇で愛撫してくれ!」 「………………」 神子は愛らしい口をポカンとお開けになったまま、しばし沈黙された。その様子を、王が固唾を飲んで見守っておられる。 「……つまり……アレ? シックスナインってやつ?」 「しっくすないん? 神々の国ではそう言うのか? お前、し、知っているのか?」 「知ってるっていうか……いや、なんつーか……ていうか、一体どういう風の吹き回しだよ。あんた、俺が前やろうとしたらやめさせたじゃんか」 「確かにそうだ。今もけして本意ではない。だが、これしか方法がないのだ! も、もちろんお前が嫌だというのならば仕方ない。ただ、私にお前を愛撫させることだけは許してくれ!」 必死の形相でそう言い募る王を前に、神子は目元をうっすらと赤く染められた。 「……いいよ」 「えっ!」 「俺だってさ……悪いなぁ、とは思ってた。結局、何日だ? 四日? その……シテなかったわけじゃん。お前も我慢してくれたし……だから、いいよ。口でしてあげる」 おそらく無意識であろう。唇をペロリと舐める神子の様子を食い入るようにご覧になって、王は嬉しそうに微笑まれたのであった。 「ん……んぐ……んあっ、ちょ、ちょっと待って、ジャハーン……」 「何故だ?」 「だって、あ、そんなにしたら……ああんッ! 待って、ちょっと、俺が……っ、できなく、なっちゃうだろ!」 「良い……一度、出してから……それから、すれば……良いではないか」 「あ、あ、そ、んなの……やだぁっ……だ、だから、アアッ! す、吸うなって!」 「ああ、愛しい、潤……お前、やっと……少し生えてきたな」 「ほっとけ! んっ……こら、そんなとこ……あ、こらっ、そっち舐めんなって! ひゃぁっ……ちょ、ちょっと、反則だろ!」 「こちらも愛してやらねば、かわいそうではないか」 「どーいう理屈だよっ。ちくしょう、それなら……」 「っ! ……潤、う……くっ……」 「どうだ、俺だってなあ……ふあああっ! あ、いやぁっ! や、し、舌入れんなよ!」 「うん? 舌では足りぬのか?」 「あっ、ま、待って、あ、動かさ、ないでっ……はあぁッ」 「ああ、潤……早く、指などではなく、私自身でお前を愛したい……」 「ふ、あ……ああ、んん……んぐっ」 「! じゅ、んっ……お前、歯をあてるな!」 「ゴ、ゴメン……ごめん……な。痛かっ……た?」 「ああ。まったく、仕置きが必要だな」 「ごめんって……アアアアッ!!! あ、いやぁあ、あっ、あっ、ダメーッ! イッちゃうっ!」 「……どうやら、うまくいったみたいだね」 「そ……そのよう、ですね……」 「明日からは、王のご機嫌も直るだろ。よかったな」 「は……ハイ……」 廊下で中の様子を伺っていたアマシスとカリムは、このことをムスタファ将軍に報告すべく、そっとその場から歩き出した。 「やれやれ、わざわざ様子を探らせるなんて、ムスタファ将軍も心配性だよなぁ」 「ま、まったくです……」 「ん? カリム、お前……」 「なな、何ですかっ、わ、私は何も」 「ふうん? それじゃ、これは何かなぁ?」 「うわぁっ!」 「シーッ……どうしてここがこんなに硬ぁく熱ぅくなってるのかな?ん?」 「ささ、触らないでくださいっ」 「いいじゃん、減るもんじゃなし。フフフ……こんなにしてたらつらいだろ? 一発抜いてく?」 「い、いっぱ……結構です! 私は将軍に報告に行かなくては。! い、痛いっ、放してくださいっ」 「まったく素直じゃないんだからなぁ。ここはこんなに素直なのにね。ほら、握りつぶされたくなかったら言うこと聞きなよ。何も取って喰おうってんじゃないんだからさ。ま、違う意味で食べちゃうって感じではあるけど」 「い、いいえっ。もう二度とあのようなことは」 「あ、そうなの? それなら今度は、後ろを開発してあげようか? クセになるかもよ」 「な、な、な……」 「あ、僕の部屋ここだよ。ほら、入った入った」 「お、お許しを〜〜〜〜!」 かくして、王宮の夜は更けてゆく。 太陽の王国は、今日も一日平和であった……。 |