肉食獣を思わせるその金色の瞳が、熱を湛えて俺を見つめている。欲望と優しさを宿らせて、きらきらと煌いている……俺はその目に見つめられるだけで、ホッと安心すると同時に、ドキドキしていても立ってもいられないような気持ちになる。もう身体はジャハーンをすっかり覚えてしまって、パブロフの犬みたいに、その視線ひとつに反応してしまうんだ。 「潤……お前は美しい」 女の子に対するかのようなその口調にも、すっかり慣れてしまった。初めはムカッと来たけど、ジャハーンが嘘をついてるわけじゃないって今はわかっているから。 ジャハーンは俺の乳首を唇ではさみ、優しく転がしながら囁いた。 「良かった、無事で……本当に良かった。お前なくして、私はどうやって生きていけば良い?」 「で……でも、今まで…俺、居ない。ジャハーン…生きて来た、でしょ?」 「ああ、確かにそうだ。だが一度お前という存在を知ってしまったら、私はもうお前なしでは生きてゆけぬ。どうしてくれる?私をこんなにしてくれて」 「え……」 「潤、私をここまでしたのはお前だぞ。さあ、どうしてくれる?」 「そ、そんなこと言ったって……」 「側に居ると、私の側にずっと居ると、言ってくれ」 こんなに凛々しく、自信に満ち溢れていて、不可能なんてないかのようなこの男に懇願されて、ノーと言えるだろうか?俺は乳首にジャハーンの愛撫を受けながら、答えた。 「あ……ジャハーン、俺……俺……側にいる」 「……もう一度」 「俺、ずっと側に居る。離れないよ。もう、帰らない……ジャハーンが、好きだから」 言ってしまった。ついに、自分の気持ちを。 ジャハーンはハッと息を飲むと、俺の目をひたと見据えた。 「今、何と……潤、今何と言った?」 「ジャハーン、俺……好き、だ。ジャハーンが、好き」 「潤っ……」 ジャハーンの瞳の金色が濃くなって、輝きを増したのがわかった。それはとても不思議で、でも綺麗で、俺は思わず見とれてしまった。 「心臓が、痛い。こんな気持ちは知らぬ。潤、潤、一体これは何だ」 「え、だ、大丈夫?」 「大丈夫ではない。お前のせいだ……潤、好きだ。好きだ。愛している」 ジャハーンは俺の分身を布越しにやんわりと撫で、すぐに中へ手をもぐらせてきた。身体をずらし、いきなり先端を口に含んだので、俺は少し焦った。そういえば俺、風呂入ってないんだった。 「ジャハーン、俺、洗ってない……汚い」 「汚いわけがあるか。こんなに綺麗な身体が」 「だって、汗、たくさん……洗ってない、嫌だよ」 「おかしなことを気にするものだな、お前は。良い、私が綺麗にしてやる。もうこれ以上待てん」 舌全体で俺をくるむように、嘗め回される。まるでナメクジが這っているかのようなその感覚に、俺は身を捩った。 「ああっ……いやぁ……」 裏筋をねっとりと舐め上げられ、くびれをチロチロとくすぐられ、先端に強く舌先を押し当てられると、俺はあっけなく追い詰められてしまう。ジャハーンの愛撫は、テクもそれこそ太刀打ち出来ないくらいすごいけど、でもそれより何より、「好きだ」って気持ちがその舌から、指から、身体中から伝わってくる……そんな気がして、俺はどうしようもなく感じてしまうんだ。 「あっジャハーン……だめ、もう、だめっ……」 俺が上ずった声で告げると、ジャハーンはそれをスッポリ咥え込み、頬をすぼめるようにして締め上げて来た。柔らかく温かい、うねるような口中に包まれ、俺はもうたまらなくなってジャハーンの赤っぽい金髪を両手でかき回した。俺より少しだけ長いくせっ毛は、見た目よりもずっと柔らかくて、でもコシがある。俺はひそかにその手触りが好きだった。 「あっ、あっ、だ、だめっ、あっ、……あああぁッ」 びくびくと痙攣しながらジャハーンの口中に放った。それをあいつは何のためらいもなく飲み込む。あんなものを嬉しそうな顔をして飲み込むなんて、ほんと理解できない男だ。おいしいわけがないのに。 「潤、なんと可愛い奴だ」 本当に嬉しそうな声で言われて、俺はカーッと頬を染めた。馬鹿野郎、こんなタイミングでそんなこと言うなんてずるいぞ。 「ば、バカッ! かわいい、違うッ」 「なにが違う? こんなに可愛いというのに」 「俺、俺女違う! かわいい違う、からなっ」 「まだそんなことを言っているのか」 ジャハーンは俺の後穴を指でなぞりながら、甘ったるい低い声で言った。 「お前を女のようだなどと思ったことは、一度もない。女は何度も抱いたが、潤は全く違う。心根の愛らしさも、身体の美しさも、反応の艶っぽさも、全てが別の生き物のようだ。潤、お前だけだ。こんなにも私を魅了するのは」 ……どうでもいいけど、そんなこと肛門に向かって言うんじゃないっ。 なんだかムズムズしてきてしまうじゃないかぁ……。 「はうっ……」 ふいにそこをペロッと舐められて、俺はビクッとなった。 「バカ、そんなとこ! 洗ってない、汚いから、舐めるな!」 「潤が汚いと気にするから、舐めているのではないか。これで綺麗になる」 「ばばば、ばっかやろうッ! 舐める許さない! ぜったいッ」 こればかりは譲れないと、俺が頑なに拒否したので、ジャハーンも諦めたようだ。未練がましくペロッと舐めた後、床に置いてあった金色のビンを取り出す。あ……アレはもしかして……。 蜂蜜色の、芳香を放つその液体。その匂いを嗅いだだけで後ろが疼いてしまうくらい、もうすっかり身体になじんでしまった。初めてのあの時から奴が愛用している、媚薬入りの香油だった。 それをトロトロと股間に落とされて、肉桂(シナモン)の香りがふわっと辺りに漂った。 俺の息子を伝って、黒い茂みを潤わせ、玉の間を流れ落ち、後ろの穴に少し油溜まりを作った後、シーツを濡らしてゆく。火照った体にそれは少し冷たくて、余計に俺は煽られた。 「……美しいな」 うっとりとジャハーンが呟く。この阿呆っ、どこがうつくしーんだよ、どこが! こんなやらしい真似しやがって! だけどジャハーンの、この美的感覚? に救われているのも事実だ。ここであいつに「厭らしい眺めだ」とか何とか言われたら、俺は恥ずかしさのあまり憤死してしまうかもしれない。 「ひッ……!」 ツプンと水っぽい音をたててジャハーンの指が侵入して来た。 「あ、ああ……ンううっ……」 いつもより性急に、指はそこを押し広げて行く。ジャハーンの息が荒い。 「すまない、潤。もう耐え切れん」 グイッと太ももを抱え上げられて、ジャハーンが一気に熱い塊を捻じ込んで来た。 「うわああああぁぁぁッ!」 俺は痛みと衝撃に叫んだ。 ジャハーンが切なげに顔を歪めた。 「クッ……きついな。潤、もう少し力を抜け」 そ、そんなこと言ったって! これって、こんなに痛かったっけ? そりゃ最初は痛かったけど、最近は慣れていたのに。 「二日していないだけで、こんなにも締め付けがきつくなるとはな……若さ故か、それともこういうものなのか」 何かまたジャハーンがぶつぶつ言ってるけど、俺はそれどころじゃない。文字通りもういっぱいいっぱいだ。 ジャハーンが与えてくれたキスにむしゃぶりついて、俺は必死に気を紛らわそうとした。ジャハーンは優しく唇で俺を宥めながら、手を伸ばして俺の力を失った息子を撫で上げた。そのまましばらくそうしていてれて、少し楽になってきた。まだ大分引き攣れるような痛みはあったけれど、ジャハーンがつらそうに耐えているのがいじらしくて、俺はがっしりした首に腕を回してその耳元に囁いてやった。 「ジャハーン……も、う、いいよ……動い、て……」 「……無理を、するな」 そう答えるジャハーンの方が無理してるって感じだ。日に焼けているからわかりにくいけど、目元が赤くなってぴくぴくしている。 「いい、から……来いよ」 その言葉が終わるや否や、ジャハーンが力強く腰を使い始めた。多分俺に気を使って抑えているつもりなんだろうけど、やっぱり勢いを殺すことは出来ないみたいだ。俺はジェットコースターのようなその激しさに翻弄される。 「潤、潤、好きだ、好きだ、潤ッ」 ジャハーンの額から噴きだした汗が、ぽたぽたっと俺の頬や首筋に落ちる。俺がその感触に愛しさを感じたその時、ジャハーンが俺のあの部分を掠った。 「あああぁぁッ!」 そこから足の指先まで、雷のような痺れが駆け巡った。快感の発信源の上を、ジャハーンのたくましい熱が何度も擦りあげる。 「潤、潤、イイか、イイのかっ?」 「あああっ、あっ、イイッ……」 イイとか悪いとか、そんなのぶっ飛んでしまうくらい、イイ。もう何も考えられない。俺はジャハーンでいっぱいになってしまう。こんなにも強く、こんなにも激しく。 ああ、もう、溶けてしまう。壊れてしまう。 それでもいい。こいつにだったら、壊されてもいい。 そう思いながら、身体の奥に熱いほとばしりを感じ、俺は意識を飛ばした。 日本が恋しくないと言ったら、嘘になる。あそこは俺の生まれ育った場所で、居るべき所だった。 でも今、俺はここを選んだ。この砂漠と湿地の混在した、ジャハーンの王国を。 俺はジャハーンが好きだ。こいつと離れるくらいなら、故郷を捨ててもいいと思うくらいに。 いつかこの選択を後悔する時が来るかもしれない。でも、来ないかもしれない。だけどこいつは俺が居なくちゃ駄目だから……俺が居なければ生きていけないと言うから、俺はここに居なければならない。神子だとか、そんなのはよくわからないし、もうどうでもいいと考えることにした。ただ俺はジャハーンが好きだし、あいつも俺を愛してると言う。それでいいんじゃないかと思うんだ。 先のことは、これから考えよう。 ジャハーンの広い胸の中で、茹だるような暑さを我慢しながら、俺はちょっと微笑んだ。 第一章 神子と砂漠の王 完 |