その年は、俺とジャハーンの結婚5周年だった。 何か男同士で結婚記念日っていうのも照れくさいんだけど、でも国をあげてのお祝い(つまり式典とか儀式とか)をしてもらって、まあ疲れたけど嬉しかった。大勢の前で背筋伸ばして挨拶するのは、やっぱり緊張するし全然慣れないんだけど、すごい人数の人たちがみんなこの国の民で、それで俺達をこんなに祝福してくれてるんだなぁって実感して本当に感動できた。 そっかー、俺達、もう5年以上一緒にいるんだなぁ。 何か長かったような、あっという間だったような……でもほんとに色々あったな。今こうして一緒にいれて、仲のいいやつらや可愛い子供達(まぁ俺が産んだわけじゃないけど)がいて、何だかんだ言っても幸せだなぁって思えるようになるとは、想像もしてなかったもんな。人生って不思議なもんだ。 そんなことを、アマシスと湯殿で話していた。 「そうは言うけどさ、潤。まだ5年なんだから。これから先、10年、20年て、祝賀式典を行えるように頑張ってもらわないとね」 「なんだよ、たまにはいいこと言うじゃん」 珍しくまともな意見を言うアマシスに、俺は感心してしまった。 「今はまだ若いからいいけど、歳を重ねても王に愛されるようでいなきゃ」 ……んー、あの評価は早まったか。 「つぅか、大体その考え方からして違うっていうか。だって夫婦ってさ、夫が妻のこと一方的に愛するようなもんじゃないだろ。お互い……その、好きって思いあって、協力しあっていくっていうか。いわば対等なわけ」 「王よりも、王妃は立場が上なんだってば」 「そーいう決まりごととかじゃなくてさ、つまり気持ちの問題だって」 「僕が言ってるのは身体の問題なんだけど」 「…………あっそ」 そればっかりは、その時になってみなきゃわかんないだろう。 ある意味、男はわかりやすい。 つまり、勃つか勃たないかってこと。 だけど俺は、これはちょっとロマンチックすぎるのかもしれないけど、俺達はずっとお互いにその……欲しいって思っていられるんじゃないかなっていう予感もある。それに、もし肉体的に無理になったとしても、でも必要とし合える……そんなふうな関係が理想だよな。 「甘いよ」 だけど俺の男心は、アマシスの冷めた一言によってバッサリと切り捨てられた。 「愛の営みにおいては、刺激が重要なんだよ。何年も同じようなことしてたら、絶対に飽きがくるさ」 「飽きって……」 マンネリってやつ? まー……否定はしないけど。 でも、今はマンネリっていうよりは、お互いの存在に慣れたっていうか、ガツガツしなくても大丈夫なんだって安心感が生まれたっていうふうに思うんだけど。だって最初の頃のように、馬鹿みたいにエッチしてたら体がもたないよ。それに……その、なんて言うか、今だって、充分……満足、してるし。 刺激とかって、必要なものだろうか? 「ねえ、潤は、今までしたことのないことをやってみたいって思わないの?」 「えっ……何だよ、それ」 「だから、潤と王がしたことのないことだってば」 「たとえば?」 「それを聞いてるの。僕が知ってたら怖いでしょ。まあ、全然知らないってわけでもないけど」 「はあ? ……って、いきなり聞かれても」 「潤が上になったことはある?」 医者みたいな口調で聞かれて、俺は思わず頷いてしまった。 「ま、まあな」 「寝台以外の場所でしたことは?」 「えっと、湯殿と、普通に部屋でなら」 「外では?」 「それはないだろ。いや、ていうか無理だろ。あいつも立場ってもんがあるし、つうかその前に俺がイヤだ」 「じゃあ縛ったことは?」 縛るって…………。 「…………ナニを?」 「腕とか、足とか、あとは」 「あっ、あるわけないだろ! だって、な、なにそれ。え? SMってこと?」 「えすえ……? とにかく、ないんだね?」 「ありえないし!」 「じゃあ、それで行こう」 行くって、何処へ? 「あのう、ボクついていけません、アマシスさん……」 「安心して、潤。僕がついてるから」 アマシスはにっこり笑った。 「手取り足取り、何でも教えてあげるって……5年前に言ったでしょう?」 言ってましたけど、そりゃ……どっひゃーって感じでしっかり覚えてますけど……何かロクでもない知識ばっかりつけさせられたような気もするぞ。 「いいよ、そんなの」 「そんなのって何だよ? 大事なことでしょう。ほら、記念の年なんだし、せっかくだから王を喜ばせてあげたら? おまけに自分が気持ちよくなって、二度おいしいじゃん」 にっこり笑う顔は昔みたいな女の子っぽさはないんだけど、やっぱり色っぽくてキレイで……でもこれにだまされるとえらいことになる。 「いや、やっぱいい。普通が一番だって」 「やってみないうちに決め付けることないじゃない。ものは試しだってば。やってみて、やっぱりいつものがいいって思うんだったらそれもいいことだと思わない? 改めてお互いの愛情を確認っていうかさぁ」 「う、んー……」 ものは言いようって気もするけど。 「王はたくましくて力強い、まさに王たるべきお方だけど、たまには男として勝ってみたいとか思わないの? 寝台の上で相手を征服してみたいとか思わないの?」 「まー、それは、俺も男だし、思わないこともないけど」 「でしょう? 女の人じゃこんなことできないってば。普段鍛えてる潤だからできるんじゃないか。最近また少し筋肉がついたんじゃない?」 「え、マジで? わかる? 俺もそうじゃないかなってちょっと思ってたんだよな! 気のせいかもとか思ってたんだけど、アマシスもそう思う?」 「僕を誰だと思ってんの。いっつも側にいて潤のこと見てるんだから、そりゃあわかるってば。だから、潤には王に対してももっと男らしい態度を取ってもいいと思うんだよね」 「まーな! 俺だってもう21だし! 立派な成人男子だよなー!」 「でしょう? だからさ、こういうのはどうかな……」 「え、なになに……」 「……それで、油断したところに……」 「わ、マジで? それはえげつなくない?」 「人聞きの悪いこと言わないでくれる? ここからが本番なんだってば。……そしたら、王の衣服を……いい? この時、絶対にほだされちゃ駄目だよ。冷たいぐらいの態度を取って、相手を翻弄させなきゃ」 「うーん……できるかなぁ……」 「何弱気なこと言ってるの? 王が困って、でもドキドキしてる顔とか見てみたくない?」 「……それは、ちょっと見てみたいかも……」 「だったら、王のあそこをこうして……」 我ながらのせられやすい性格だなって思うけど、まぁやっぱ俺もオトコだし……そういうわけで、すっかりその気になってしまった俺は、わくわくと夜を待つことになったのだった。 →2 →TOP |