そうして連れてこられたのは、広々とした寝室のようなところだった。
 5人くらい寝られそうなベッドがでんと中央に端座している。
 そしてそこには、さっきとはうって変わって、きんきらきんの飾りをつけたやけに立派な感じのジャハーンが座っていた。何か、すごいゴージャス。王様みたいだ。俺がそんな格好したらお笑いにしかならないだろうけど、ガタイも良くて迫力のあるジャハーンだと、思わず見とれてしまうくらい似合っている。
『おお、支度が済んだか、ジュン』
 俺の名前を呼んでベッドから立ち上がると、ジャハーンは目をキラキラさせながら俺に近づいてきた。そして、俺を上から下までジロジロと眺める。はっ! やばい。俺スケスケだった。
 俺はあわてて息子を両手で隠したが、ぐいっとその手を掴まれてどかされた。
『何故隠す、ジュン。お前の身体を見せてくれ。おい、お前ら、もういい。下がれ』
 少年達に何か指図したようだった。彼らはその場で土下座をすると、しずしずと部屋から出て行った。そして残されたのはスケスケの俺と、キラキラのジャハーンの二人っきり。もしかしてこれって貞操の危機?
 恐る恐るジャハーンの顔を見上げると、やっぱりジャハーンは耳を赤くして、目をうるうるさせていた。
『ジュン……私は、子供の頃からこの日を夢見ていた。預言によると、ある日光り輝く安息の地より神子が遣わされ、私の花嫁となってこの国を繁栄させるという。そして、お前は今日こうして現れた……ジュン、お前は私の花嫁だ。私だけの神子だ』
 熱っぽく語ると、ジャハーンは俺を抱きかかえ(またお姫様抱っこだよ……勘弁してくれ)、ベッドにそっと降ろした。俺はと言えば、ガチガチに固まってしまって言葉もない。
 嫌だ。俺、犯られちゃうのか。そんなの嫌だ。まだ女の子とだってエッチしたことないのに、こんなムキムキマッチョのホモに犯されるなんて、神様! そんなのないよ。誰か助けて!
 俺がぶるぶる震えているのを見て、ジャハーンはにやっと笑った。ぎゃ―っ! 怖いよぉ。
『震えているのか、ジュン。お前は初めてなのだな。やはり神子というのは清らかなものなのか。……恐れることはない。私がお前を、蜜のようにとろけるまで愛してやろう』
 何言ってんだかわかんないので、なおさら怖い。
 はっと気がつくと、ジャハーンの顔が目の前にあった。恐怖のあまり、思わず目を瞑ってしまう。
 むにゅ。
 唇に、柔らかい感触。きき、キスされてる!? あ、マッチョでも唇は柔らかいんだな。
 何度か唇を吸われたり、唇で唇をはさまれたりしているうちに、ふいにぬるっとした舌が歯を割って入ってきた。うう、気持ち悪いよぅ。歯列を確かめるように歯茎の内側をぐるっとたどり、俺の舌を見つけると、ちろちろとくすぐった後、ねっとりとからませてくる。頬の内側の肉をくすぐられたり、舌を優しく噛まれたりする内に、吐き気はいつの間にか何処かへ消え去り、俺はぼーっとなってきてしまった。だって……こいつ、キスうますぎるよ。こんなのってありかよ。
 最後にチュッと音を立てて唇が離された時、俺とジャハーンの唇の間を、糸のように唾液が一本繋いでいるのが見えた。それを呆然と眺める。
『想像以上だ……何て白い肌をしている、ジュン。まるで大理石のように滑らかだ』
 ん? あ!!!
 こいつ、いつのまに服脱がしたんだよ! 手ぇ早すぎる!
『この乳首の色! まるで果物だな。甘くて、いい香りのする果物……』
 また何かうっとりと呟きながら、ジャハーンは俺の胸に顔を寄せた。そして、チュッと俺のちちち乳首にキスをすると、赤ん坊みたいにちゅうちゅう吸いだした。
 ていうか、そんなとこ吸われても、俺女じゃないし何にも感じないんだけど……
「痛っ!」
 びびび、びっくりしたぁ。こいつ、噛みやがった。俺の乳首噛みやがったよ。痛ってぇー!
 痛くてじんじんしているところを、今度は舌の先がちろちろなぐさめるようにくすぐり出した。んんん、何だこの感覚。何か乳首がきゅうっとなる感じがする。今度は反対側の乳首を、人差し指と親指を使ってクリクリといじくり始めた。うわあああ、信じらんねえ。俺ってもしかして乳首で感じてる?
「はあ……っ」
 思わず溜息をついてしまった。ああ、ダメ。そんなにクリクリされると、腰が勝手に動き出す……。
『敏感だな』
 唾液でべとべとになった乳首は、スースーして冷たくて、それだけでじんじん来てしまう。  
 ただでさえさっきギリギリまで昂ぶってしまった息子が、もうギンギンである。
 ジャハーンは顔を少しずらすと、今度はへそを舐めてきた。
 馬鹿野郎、何処舐めてんだよっ! この変態!
 俺は気持ち悪いような、モゾモゾするような、中途半端な感覚に身もだえしはじめた。あっ、そんなに奥まで舌入れられると、何かおしっこ漏れそう……。でも、とあることに気がついて、俺はピタッと動くのを止めた。今、ジャハーンは俺のへそを舐めている。ということは、俺の息子がジャハーンの顎から首の間に当たるわけで……何だかとってもきわどいことになっているのだ。
「ちょっと、あの、ジャハーン。悪いけどそれあたってるから、顔どかしてくんない?」
 そうお願いしてみると、ジャハーンはふと顔を上げ、了解した、というように頷いた。ホッ、通じたみたい。
『わかった。焦らしてすまなかった。今、イかせてやる』
 そうそう、そうやって足開いてねって……はあっ???
 ちょっと、違うって。あっ、馬鹿! 男のそんなとこ舐める奴があるかよ!
 ジャハーンは俺の先っちょをぺろぺろと舐めながら、そのまま竿を伝って、袋をすぽっと口で包んだ。
「いや、あっ、ダメだって。あっ、はあっ、ううぁああぁん……」
 再び先っちょに舌が戻り、皮をずるっと降ろして直に中身に触れられた時、ものすごい快感が俺を襲い、「出る」と言う間もなく、俺はジャハーンの口の中にぶちまけてしまった。
「はあっ、はあっ、はあっ、ご、ごめん……てか、の、飲むなっつーの!」
 信じらんねえ。こいつ、俺のアレ飲んだのか。
『ジュン、かわいかった……。お前の恵みを飲み干すことが出来て、私は嬉しいぞ。今度は、私を受け入れて欲しい』
 ますますうっとりした声で囁くと(そんなとこでしゃべんな! 息があたるんだよ!)、ジャハーンは俺の足をぐいっと上に持ち上げ、肛門に例によってチュッとキスをすると、スボッとゴツイ指をつっこんで来た。
 うわあっ、びっくりしたびっくりしたぁ!
 さっきあの子達に指入れられたから痛くはなかったけど、それにしたっていきなり入れることはないだろ! それにしても、うわぁ、さっきの香油のせいか? 中がドロドロしてんのがわかる。ジャハーンが指を出し入れする度に、くちゅくちゅ音が聞こえて……すげえエロチックだ。
「ふわぁっ!」
 突然、ビリビリっとした電流が身体中を走って、俺は一瞬目の前が赤くなったような気がした。何だこれ!?
『ああ、ここだな』
 ジャハーンが舌なめずりをしながら、またそこを爪でこすった。
「ひああああっ!」
 今度は、さっきより強い刺激が走る。腰の奥のほうにある何かが甘く痺れた。これってもしかして前立腺ってやつ? 前立腺マッサージっていうのが風俗であるって聞いたけど、これのことか。
 快感に麻痺する頭の奥で、何処か冷静な自分がそんなことを考えていた。恐怖はいつの間にかどこかへ去っていた。だが、三本に増やされた指が派手な音を立てて抜かれ、いざ猛り狂う怒張をそこに押し当てられた時、再び恐怖が俺を襲った。
「ひっ!」
『ジュン、大丈夫だ。私を信じろ。』
「ちょっと、こんなの入んないよ! 絶対無理だって!」
『ジュン、力を抜け。……行くぞ』
「うわああああああ!」
 メリメリっと肉を割って、それが入ってきた。内側が、きちきちに引きつれているのがわかる。そこからビリビリと身体に亀裂が走るような気がした。
「裂けちゃう、裂けちゃうよお! 痛ったああああ!」
『ジュン、力を抜くんだ。これでは入らない』
「痛いよお! 抜けよぉ、てめえ、このやろお!」
 俺はジャハーンをバシバシと叩いた。でも、その振動でさらに喚いてしまう。
「あぐうっ!」
『くっ、なんてキツさだ……このままでは入りそうにないな、だが、しかし』 
 ジャハーンも辛そうだ。でもそんなの気にする余裕なんてない。
 ぎゃあぎゃあ泣き叫んでいると、ジャハーンがぬっと手を伸ばして、俺の萎えきった息子を掴んだ。そして、上下に擦り出す。それに気を取られてふっと力を緩めると、その隙を狙ってジャハーンがぐいっと奥までその凶器をめりこませた。
「うぐぅぅぅぅぅううう!」
『入った、全部入ったぞ。わかるか、ジュン。触ってみろ』
 手を掴まれて繋がっている所を触らせられる。俺の肛門がめいっぱい広がって、ジャハーンのそれを根元まで飲み込んでいるのがわかった。
「ううっ……」
『どうした、痛むのかジュン。泣くな』
 俺は、ひどい痛みと、息苦しさと、男に犯られちゃったんだという屈辱と、こんな所にこんなモノがっていうショックと、目の前のこの男をこうして受け入れている、男同士なのにひとつに繋がっているという事実に対するわけのわからない感動と衝撃とで、めちゃめちゃに混乱して涙を流していた。
 だから、俺をなぐさめるように与えられた唇に、夢中になってすがりついた。
『ジュン、ジュン、泣くな。お前が愛しい、愛しいんだ。泣くな、ジュン』
 俺の名前や短い言葉を囁きながら、何度も何度も優しいキスをくれるジャハーン。俺は、こんなひどい行為をしている張本人に、助けを求めてしがみつく。俺を助けてくれるのはこの男しかいないと思った。
「ジャハーン、ジャハーン、助けて、どうにかなっちゃうよ。ジャハーン」
『大丈夫だ、ジュン。何も怖いことなんかない。ジュン、ジュン……』
 今この瞬間、俺たちの言葉は通じていると確信できた。
 俺は必死に助けを求め、ジャハーンは俺をなぐさめ、優しい言葉をキスと共に何度でも与えてくれる。
 やがて、俺の涙が治まった頃に、ジャハーンがゆっくりと腰を使い始めた。
「あっ、あっ、あっ……」
 痛みはまだひどかったけれど、痛みの向こうに、身体の芯を強く震わす何かがあった。
 俺を気遣うように小刻みに動いていたのは最初だけで、すぐに激しく揺さぶり始める。
「あっ! はっ、あっ、あっ、ああ! あっ、はああっ……!」
 俺はもう何も考えられなかった。
 俺という存在そのものが、激しい流れの中で翻弄されているみたいだった。
 ジャハーンも、荒く息を吐くだけでもう何も言わない。
 俺はジャハーンに深く貫かれながら、やがて意識を手放したのだった。


 そして、その後どうなったのかと言うと。
 俺はとりあえずまだこの国にいる。
 そして、ジャハーンは俺用にひとつ部屋をくれ、お手伝いさんみたいな子供も一人つけてくれた。何だかすごい待遇だ。まあ、このお屋敷の主人であるジャハーンが俺を気に入っているようなので、当然といえばそうかもしれないけれど、いままでごく普通の一般庶民だった俺にとっては、何だかもったいないような気がしてならない。
 そうそう、これが肝心。
 ジャハーンは俺を散歩に連れ出したり、色とりどりの布で俺の服を仕立てさせたりと、毎日甲斐甲斐しく世話をやいてくれる。そして、夜になると当然のごとく俺を部屋に連れ込もうとするか、俺の部屋に入り込もうとするけれど、俺はその度に蹴りをくれてやる。そうすると、ジャハーンは憮然とした顔をして、しばらく俺の顔を見つめた後、切なそうに溜息をつくのだ。俺は正直、いつこいつが怒り出すかとヒヤヒヤしているんだけれど、今のところそういうことは一度もない。ただジャハーンは一言(たぶんおやすみ、とかそういう挨拶だと思う)呟いて俺の頭のてっぺんにキスをすると、寂しそうに去っていくだけだ。

 まったく、変な奴だ。強引なんだか、弱気なんだかさっぱりわからない。
 とりあえず今俺がすべきことは、この国の言葉を覚えることのようだ。

 いつか、俺がもといた場所に帰るまで……それまでなら、ここでの生活も悪くないかと思っている。