「ふうん、それで結局何回イかされたの?」
 一人で立つことすらままならない俺は、湯殿付きの少年達とアマシスの手を借りて風呂に入っていた。
 ジャハーンは、今朝も公務に出かけたようだ。化け物だな、あいつは。
「覚えてない」
 むすっとして湯に口を埋める。
「へえ、覚えてないくらいイかされたんだ」
 嬉しそうに言うアマシスを、ギロッと睨んでやった。
「アマシス、悪い! 側仕え、ジャハーン怒った!」
「どうして? だって潤は王の花嫁になるんだもの。側仕えが必要じゃない」
「俺、いらない!」
「そうかなあ……だってさ、王が戦争で長くここを留守にする間なんてどうするのさ? 王のたくましいものを求めて疼く体を、優しくなぐさめる存在が必要でしょ?」
 だから、何でこいつはいちいちこんないやらしい言い方をするんだよっ!
「うるさいっ! ……え、戦争って?」
「他の国と戦うことだよ。今はとりあえず友好関係にあるけど、アスワン王国には若い王子が二人居て、その即位をめぐってうちを巻き込んでひと波乱あるかもしれない。大河の向こうにあるマグディ・ハン王国も、虎視眈々とうちの領土を狙ってる。いつ戦争が勃発してもおかしくないと思うよ」
「……」
 俺は、少なからずショックを受けていた。
 そうか。戦争……。その存在をすっかり忘れていたけど、あってもおかしくないんだ。というより、ない方がおかしいのかもしれなかった。俺は平和主義の日本に住んでいたけど、昔は世界大戦があったわけだし……もっと昔には国内で戦国時代なんてものもあったわけだし。
「どうしたの? 潤、怖くなった?」
 心配そうに顔を覗き込んでくるアマシスに、俺は何でもないというふうに首を振って見せた。今は、とりあえず考えないようにしとこう。
 アマシスはその少女みたいに可憐な顔で俺をじっと見つめていたが、ふと気を切り替えるように明るい声を出した。
「さて、そろそろ身体も温まったことだし、後始末をしようか」
 もとい、いやらしい声を出した。……ほんとにこいつは! そういうことしか頭にないのか!
「じ、自分でやる!」
「ええ、駄目だよ。こういうのは側仕えの仕事って決まってんの。ほら、上がって。それとも湯の中でする? 僕はかまわないけど」
「で、出るよ!」
 ざばっと湯から上がろうとすると、まだ少し身体がふらついた。それを、後ろからアマシスが支えてくれる。
「大丈夫? 別に、湯の中でやってもいいのに。だってどうせ少しは漏れちゃってるんだろうからね。まあいいや。さ、そこの絨毯の上に四つん這いになって」
「だから、いいって」
「ほら、早く早く」
 有無を言わさずその恥ずかしい体勢を取らされる。ううう、屈辱的だ。
「こら、腰を落としちゃ駄目でしょ。そう、こうやって腰を高くあげて……いい子だね」
 何か、後ろからそうやって囁かれると、変な気持ちになってくる。ただ体内に吐き出されたジャハーンの精液を掻き出すだけだっていうのに……って、これってとんでもないことなんじゃないのか!?
「アマシス、俺……はうっ!」
 体内ににゅるっとアマシスの細い指がもぐりこんで来て、俺はびくっとなった。
「うわあ、すっごい締め付けてる。あんなに交わった後に、どうしてここまでキツくなれるかなあ。これぞまさしく名器ってやつだね……ちょっと試してみてもいい?」
「はあ? 何を?」
「だからぁ、入れてもいい? って聞いてるの。僕の肉棒を、潤のココにさ……」
 と言って、アマシスは勃ち上がった自分のモノを、俺の尻の割れ目に擦りつけた。
「ダメッッッ! 絶対、ダメ!」
「ちえっ、ケチ。まあいいや。でもそのうち、ね……」
 ね、じゃないっ! まったくこいつはほんとに……っ!
「さて、じゃあ掻き出すよ」
 いちいち口に出さなくていいっ!
 アマシスが穴の奥でクッと指を曲げると、とたんに奥からドロッとした熱いものが出てくるのがわかった。
「んっ……」
「うわあ、すっごい。潤、こんなに入っててお腹痛くならなかった?」
 え、そりゃ確かにゴロゴロするかなって気はしたけど……。
「うっわあ、すごいよ。どんどん出てくる。何かもったいないね」
 と言って、アマシスはそこをペロッと舐めた。
「ひゃあっ!」
「んー、久々の王の味……。潤風味」
 ばっかやろう! 味わってんじゃねえ、この変態!
 ざばっとお湯がかけられて、最後にチュッと尻にアマシスの唇の感触を感じた。
「はい、おしまい。後は、排泄する時に出てくるから大丈夫」
「……あ、ありがと」
 とりあえず礼を言って振り向くと、俺はギョッとなった。
「ぎゃっ!」
 た、勃ってる! いや、それはさっき擦りつけられて知ってたけど。まだビンビンに勃ってんじゃんよ!
「ああ、コレ? 潤の締め付け感じてたらこうなちゃったぁ」
 きゃはは、と無邪気に笑いながらも、目がギラギラしてる……怖い。
「ねえ、責任取ってくれる?」
「無理!」
「そんなにきっぱり言うことないでしょ。大丈夫、一発抜いてくれればいいから」
「いっぱ……お、俺もう出す無理!」
「潤に出せなんて言ってないよ。僕が出したいって言ってるの。そうだ、これを機会に男の中がどうなってんのかって知った方がいいよ。ほら、手を出して」
 ぐいっと手を掴まれて、香油をダラダラと手に垂らされた。
「いくら僕でも、何にもなしじゃ傷がつくからね。ここってすごく繊細なんだよ」
 と言って、ガバッと大股開きになると、自分の穴を指差した。
 ……俺、人の肛門なんて初めて見たよ。何か、思ってたより汚くないかも。それにこいつ、下の毛まで金髪なんだ……。
「ふふ、そんなに熱い目で、舐めるように見つめなくても。実際に舐めてみる?」
「ばっ、なっ、そっ!」
「あはっ、冗談だよ。さすがに神子にそこまでさせられないもの」
 くだらねえ冗談言うんじゃないっ!
「ねえほら、触ってみて……」
 アマシスは俺の手を掴んだまま、自分のそこに導いた。言われるままに、その小さな穴を触ってみる。
 うわっ、こんな狭いとこに指なんて入るのか?
「駄目だよそんなんじゃ。ほら、力を入れて……」
 ぐっと手を押されて、指がつるん、と中に入ってしまった。す、すげえ……。中ってこんなになってるのか。熱くてきつくて、たくさんの襞がある……。
「ふふ、どう? 潤ほどじゃないけど、僕もなかなかの名器でしょ。ほら、こうすると……」
 と言って、ギュッと俺の指を締め付けた。
「ね? これで男はイチコロなんだから」
 ま、魔性の男、アマシス……。
「でもね、僕もイチコロになっちゃう所があるんだよ。ほら、もっと奥まで入れて……そう、そこらへん、指をぐるっと回して見て。何か違和感のある所があるでしょ?」
 そういえば、何かコリっとした所があるような。
「あっ、そう、そこだよ……アンッ!」
 どきっとした。そこを指で押しただけなのに、アマシスがすごい声を上げるからだ。
「アマシス、どうした? 大丈夫?」
「ふう……大丈夫って、今のは嬌声だよ。喘ぎ声。気持ちいいの」
「あ、そ、そう……」
 そういえば、俺も内側のある一点を押されると、ビリビリっとしてこんな声出しちゃうかも……。
「ねえ、もっと押してみて。擦ったり、爪で掻いたりしてみて」
「は、はい」
 俺は神妙に頷いて、ドキドキしながらそこをそっと爪で擦ってみた。
「アアア〜ッ! あ、イイ! 潤、もっとぉ……」
 アマシスは俺の身体に足を絡みつかせ、ぎゅっと包み込んだ。な、なんかすごい体勢じゃない? これって。
「ねえ、もっとぉ。もっと激しくして! アア、そう、イイ! すごい! アンッ」
 うわあ、こいつ色っぽすぎるよ。褐色の肌が心持ち上気して、青い目がうるうるして、息を切らせたその薄い唇の間、白い歯の隙間からピンク色の舌がチラチラ見えて……。俺も、あの時はこんな顔してるんだろうか?
「あッ、欲しい、潤、欲しい……もっと、もっと!」
 アマシスは甘ったるい声でしきりに喘いでいる。どうでもいいけど、まだイかないのか? 俺だったら、とっくにイってる頃なのに。もしかして俺って早漏? ガーン……。
「アン、イっちゃう、イっちゃうよぉ。潤、ちょうだい! 僕のいやらしい穴に、潤の熱いのいっぱいちょうだい! 思いっきり奥にぶちまけて! アッ、アッ、アア〜〜〜〜〜ッ!!!」
 フィニッシュ。褐色のアマシスから、ビュッビュッと白い液がたくさん出た。俺の腹に当たった後、アマシスの腹と陰部にポタポタと垂れる。
「アア……すっごく、ヨかった……潤、最高」
 ハアハア言いながら、アマシスが俺の唇にキスをする。おい、ドサクサに紛れて何しとんじゃい。それにしても、最後のアレなんだ? すげえいやらしいセリフ……AV女優みたい。
「あはん、どう? 最後のあれ、燃えたでしょ? まるで入れてるみたいじゃなかった?」
 おい、計算ずくかい。ほんとこいつってすげーなあ。
「ふふふ、ああ〜、それにしても、すっごい興奮しちゃった、僕。僕よりキレイで色っぽい潤が、ドキドキしながら僕の穴責めてるんだもん。何かすごくイケナイことしてるみたいで、燃えるなぁ。いたいけな美少年を咥え込むって、こんな気分?」
 おい、何うっとりした顔して変なこと言ってるんだよ。
「ねえ、もう一回しよ? 今度は潤のビンビンに勃ったやつ入れてよ……いや、僕が入れたいな、潤の中に。潤のよく締まるかわいいココを、僕のいやらしい肉棒でぐちゃぐちゃに掻きまわしたい……あっ、何コレ! 潤全然勃ってないじゃないのさ! ひっどぉい! 僕ってそんなに魅力ない?」
「い、いや、その……だって、ジャハーンが……」
「あ、そっか。王がさんざん搾り取ったんだっけ。くっそー、読まれてるよなぁ。僕に喰われないようにってこと? まあ、ちょっぴり味見はしちゃったけどさ」
 けろっとした顔で言うかわいらしい顔を見ていると、俺はどっと疲れを感じた。
「俺……もう寝る」
「うん? 疲れちゃった? じゃあ、もう一回身体流そうか。お前、湯を汲んできて。たくさんね。それからお前、僕の後ろの後始末をしろ。あん? 何お前ら勃たせてんだよ。下衆の分際で、潤と僕に欲情してんのか? え? 違う? じゃあ何だよこれは! ほら、このおっ勃てたモノは何だって言ってるんだよ!」
 何やってんだよ、あいつは。泣きそうな顔して謝る少年のあそこを、足でグイグイ踏みつけている。
「やめろ、アマシス……いじめるな」
「いいんだよ、こいつらこうされて喜んでるんだから。あっ、こいつ、僕の足でイきやがったな。おいこら、足が汚れたじゃないか。舐めてきれいにしな」
「は、はい、アマシス様」
「アマシス! 俺怒る! 側仕え、やめるいいか!?」
 俺が怒鳴ると、アマシスはエッと叫んで真っ青になると、泣きそうな顔をしてすっ飛んで来た。
「ごめん、ごめんなさい、潤。もうしない。だから側仕えやめさせないで。潤の側に居させて」
 ……調子のいい野郎だな。でも、何だかかわいそうにも見えてくる。
「わかったら、いい。アマシス、あの子謝れ」
「ええ〜っ?」
「謝れ!」
 もう一度強く言うと、アマシスは口惜しそうな顔をして、吐き捨てるように呟いた。
「おいお前! ……悪かったな」
「エッ! ……と、とんでもございません! 恐れ入ります、お許しくださいアマシス様!」
 謝られた当人は、ブルブル震えながら土下座をした。なんだかなあ。
「アマシス謝る、いい子。俺許す」
「もう……潤にはかなわないよ」
 と言って、何故だかアマシスは嬉しそうに笑った。
「さ、身体流して行こうか。これから寝るんでしょ? 僕も一緒に寝ていい?」
「駄目!」
「何もしないから。……僕怖いんだ。王が僕に嫉妬して息の根を止めに来るんじゃないかって……潤が助けてくれたけど、僕は王に殺されかけたんだからね」
 そう言われると、何も言い返せない。
「……じゃあ、許す。でも、何もするな! したら怒る!」
「わかったってば。ね、僕腕枕してあげる。膝枕の方がいいかなあ。あはっ、でもそうしたら、勃起しちゃって潤の顔に当たっちゃうかも。枕がどんどん高くなっちゃったりしてね。やだ、冗談だってば。そんな怖い顔するなよ。さ、行こ行こ」
 駄目だ、こいつ強すぎる……。
 俺はアマシスの怒涛のような下ネタにぐったりとしながら、ようやくたどりついたベッドに沈み込んだ。頭に髪を優しく撫でるアマシスの手の感触を感じながら、泥のように甘い眠りに引き込まれていったのだった。


「何をしているっお前ら!!!」
 ジャハーンの怒鳴り声で、俺は唐突に眠りの世界から叩き戻された。
「んあ……?」
 思わず、目の前のしなやかな身体にしがみつく。もう夕方か? ちょっと肌寒い身体に、温かい人肌が心地良かった。すると、ぎゅっとその腕が俺を抱きしめた。
「無粋な真似をなさいますな。せっかくお休みのところを起こしてはかわいそうですよ」
 得意げなアマシスの声が、すぐ耳元で聞こえる。……ん? なんでこんなにドアップなんだ?
「ぶ、無粋だと!? どういうことだ!? おい、貴様、アマシス! 潤から離れろ!」
「王に命令される謂れはありませんよ。僕は神子の側仕えなのですから。それに、神子が自らこうして僕に抱きついているのです」
「こ、このッ……あの時命を助けてやった恩を忘れたのか!?」
「命を助けてくださったのは神子です。ですから、こうして僕は神子にお仕え申し上げているではありませんか。神子をおなぐさめし、神子を……」
「貴様っ、潤に手を出したのか!?」
「人聞きの悪いことをおっしゃいますね。僕が神子に手を出したと?それは残念ながらまだです。神子はお疲れのようでしたからね」
「ふふん、そうであろう。この私がたっぷりと愛してやったからな」
「ええ、ですから、神子に手を出していただきました」
「あ?」
「僕が、神子にかわいがっていただいたのです。神子の高貴なるものに貫かれて、僕は……ああっ、気の遠くなるような快感を味わいました!」
 な、何〜〜〜? 何の話だ? そりゃ、俺はアマシスのあそこに指を入れちゃったけど、その言い方じゃまるで違うものを入れちゃったみたいじゃないか!
「な、なん、何だと!?」
「さすがに神子もぐったりとなってしまいましたので、僕が寝所にお連れ申し上げました。僕が甘えて一緒に寝たいと申し上げたら、快く承知してくださって……僕、神子の愛を感じます」
「貴様! 殺してやる!」
「ちょ、ちょっと、どうして喧嘩する、二人?」
「潤! 起きたか!」
「潤! 起きたの?」
 二人が見事にハモる。ジャハーンは、ぎょっとしてアマシスの顔を睨んだ。
「貴様、潤の名を呼ぶなどどういうつもりだ!」
「神子が、いえ潤がそう呼べと言ったのです。ね? 潤。そうだよね?」
「う、うん」
「潤!!! なんということを! しかも、その口調は何だ、ええ?」
「これも潤がそうしろと。ねっ潤」
「そうなのか!?」
「……だ、だって、今更丁寧、変。アマシス違う」
「潤、そんなに僕のことを理解してくれているなんて!」
「だーっ、抱きつくんじゃない! 潤、何をしている! そんな男はいつものように蹴り倒して、俺の許へ来い!」
 何でこんな修羅場になってるんだよ!?
 俺は二人の顔を見比べた。にんまりと得意げなアマシスの笑顔と、怒り狂っているジャハーンの顔……どっちの側にも居たくない。というわけで、俺は逃げ出すことにした。
「きゃっ? きゃははははは! じゅ、潤、やめて! ああああん!」
 しっかりと俺を抱きしめているアマシスの脇の下をくすぐって、腕の力が抜けた隙に、さっと逃げ出した。そしてそのまま、脱兎のごとく寝室から逃げ出そうとして、ジャハーンの力強い腕に絡めとられてしまった。
「潤、何処に行く?」
「は、放す!」
「嫌だ。潤……お前というやつは、何の穢れも知りません、という純真な顔をしておいて、私に散々泣かされた後までもこんな男に手を出すとは、とんでもないやつだな! この淫乱が!」
 ひ、ひどい。どうしてそこまで言われなきゃいけないんだよぉ。
 俺はジャハーンに軽蔑されたのだと思って、無意識にポロッと涙をこぼした。
「潤!? な、泣くな。悪かった、言いすぎた。もちろん、そんなことは本当に思っているわけがないだろう。ちょっと言ってみただけだ」
「うるさい! ジャハーンの馬鹿! 大嫌いだ!」
「潤、そんなことを言うな。頼む、な? 機嫌を直してくれ。お前に泣かれるとどうしたらいかわからない」
 おろおろしているジャハーンとは裏腹に、アマシスの冷めた声が聞こえてきた。
「なにそれ。信じらんない。王がこんな男だったなんて……。あんなにたくましくて、勇ましく気高い王も、惚れた男の前じゃ情けないもんだね。あ〜あ、がっかり」
「潤、な、どうしたらいい? そうだ、クッキーを食べないか。お前が好きだと言っていたやつだ。先ほど焼き上がったものがある。胡桃と乾燥いちじくの入ったやつだぞ」
「食べる」
 そういえば、腹が減っていたんだ。
 あのサクサクのクッキーは、甘くて香ばしくて大好きだ。焼きたてだったらさぞかし美味しいだろう。
 俺は、グイッとジャハーンを押しのけると、スタスタと居間に向かって歩き出した。その後ろをジャハーンが歩いてついてくる。
「機嫌が直ったか」
「うるさい。それとこれと、別。ひどいこと言った、許さない」
「潤、だからそれはだな」
「うるさーいっ! 今日一緒寝ない! あっち行け!」
 ちょうどいい。今日は、一人でぐっすり眠らせてもらおう。
 困った顔をして反省しているジャハーンを見ていたらもうすっかり怒りは収まってしまったけれど、今日の所は怒っている振りをしておこう。

 ……まあ、その分明日の夜は激しくされるかもしれないけどね。