王宮に到着するなり、俺はジャハーンに抱きかかえられて、奥の湯殿まで連れて行かれた。 既に知らせが届いていたらしく、すぐに水面に摘んだばかりの花々が浮かべられて、芳香を漂わせ始める。 水浴の手伝いをしようとする少年達を全員下がらせて、ジャハーンは自ら俺の服を脱がせて、浴槽にゆっくりと浸かった。 身体がサッパリとして気持ちいい。 でも、何でいきなり風呂なんだ? そう思って尋ねると、ジャハーンは真面目な顔で答えた。 「これは儀式のひとつだからな」 「儀式?」 「復活再生の、神聖なる儀式だ。私とお前が再び出会ったことを、神に感謝せねばなるまい」 「それが、水浴なわけ?」 「……潤、覚えているか。私とお前が初めて相見えた時のことを」 もちろん、忘れるわけがない。 「覚えてるよ」 「私とお前は、あの時とまったく同じ場所で、再び相見えた……」 ああ、そういえばそうだよな。あの時も、同じシシロ河のほとりだった。目をギラギラさせながら、こいつは葦の中に立っていたんだよな。 「私達の絆は一度絶たれたが、ここにこうしてまた復活を遂げたのだ。再び、新たな絆を築くという意味もこめて、以前と同じ手順を踏まねばならない」 「え? じゃあ、これってあの時の……」 「そう、再現だ。同じことを繰り返すことで、神の意志を受け止めた、という気持ちを示すのだ」 確かに、あの時、俺は王宮に着いてすぐ水浴させられたけど……でもあの時はジャハーンとは別々だったよな。 そう思ったのが伝わったのか、ジャハーンが微かに苦笑した。 「もっとも、何事にも例外はある。ようやく戻ってきたお前を、たとえ一時たりとて、この私が離せるわけがあるまい」 そう言って、俺を後ろからきつく抱きしめる。 熱い吐息が首筋にかかって、俺はどぎまぎしてしまった。 なんていうか、今更なんだけどさ。こーいう関係になってもう一年以上経つって言うのに、ときめくなんてちょっとアレなんだけどさ……だって、久々だし。しょうがないよな。とか何とか、俺は頭の中で誰にともなく言い訳をしながらも、その日焼けしたたくましい腕に甘えてしがみつき、それでも物足りなくて、振り返ってキスをねだってしまった。 ジャハーンはすぐに俺の望むものをくれた。 柔らかいけど張りのある唇が、思う様俺の息を、舌を奪っていく。 ああ、もっとだ。もっと欲しい。 そう思ってジャハーンの頭を両手で引き寄せると、ジャハーンは一旦唇を離して、至近距離から俺をじっと見下ろしてきた。 「潤……」 普段はうるさいぐらいのドラ声が、今は欲情にかすれている。どんなAV女優の喘ぎ声よりも俺を興奮させる、切なげな囁き。怖いくらいの輝きを持った黄金の瞳は、今、俺だけを映している。 「ジャハーン……来いよ」 耐え切れず、求めてしまう。 「あんたが、欲しいんだ」 そう囁くと、ジャハーンは獣が唸るように喉を鳴らした。そして俺を抱え上げると、すぐ側の小さな寝台にちょっと荒っぽく横たえた。それは香油を塗る時に横になる為のもので、もちろん一人用だ。そんなに小さくはないけど、男二人横に並んでは寝られない。だから激しい動きはできそうにないんだけど……俺もジャハーンも寝室までとても我慢できそうになかった。 だから俺は、後宮部隊での訓練を活かして、逆にジャハーンを組み伏せた。 「潤?」 欲望を湛えた瞳をギラギラさせながらも、ジャハーンがいぶかしむように眉をひそめる。 「こんなとこであんたが暴れたら、壊れるだろうが……」 「しかし、今すぐにお前を愛したいのだ。これ以上待てぬ」 「俺だってそうだよ。……大丈夫、今すぐあんたの欲しいものをやるよ」 俺は側にあった香油の壺を取り、その中身をトロリと掌に垂らした。 「だから、俺にもくれよな。今一番欲しいものを」 俺はジャハーンの上に跨ったまま、自分の指で自分の後ろに触れた。 香油のぬめりを借りて、そのまま中に差し入れる。 「じゅ、潤、お前……」 意外な展開(?)に、ジャハーンの声が少し上擦っているのがおかしい。 「久しぶり、だからな……ちょっとだけ、待って……だ、いじょうぶ。今すぐ、あげる……から」 ちょっときつかったけど、俺はすぐに指の本数を増やした。 自分で自分の後ろを慣らすなんて初めてだけど、自分の身体だから勝手はわかる。だけど、とにかく照れ臭くて仕方ない。それに何より、一刻も早くジャハーンを中に感じたくて……。 俺はその行為をおざなりに済ませると、ジャハーンの熱く硬いペニスを掴んで、ゆっくりとその上に腰を沈めた。 「ああっ……!」 だけど、それは俺の指よりもあまりにも太くて、力強くて……俺は雷に打たれたように一瞬硬直してしまう。 引き攣れるような痛みが、そこから脳天に向かって走り抜ける。 そしてそれと共に、ジャハーンを自分の中に受け入れたという喜びが、俺をたまらなくさせた。 「潤、お前という奴は……」 ジャハーンが、そのきりっとした眉をしかめる。 「少し間をおくと、まるで初めてのようにきつくなる……痛いくらいに、締め付けてくる。そのくせ良く慣らさぬのだから、まったく、それではお前の身体がつらいだろうに」 冷静な台詞のようでいて、息が荒くなっているのが何だかおかしい。 「ジャハーン、痛いのか? つらい?」 「馬鹿なことを言うな。お前の感じる苦痛に比べて、私の痛みがつらかろう筈があるまい。むしろこれは無二の喜びだというのに」 「俺だって……俺だって、ずっとずっとあんたが欲しかったんだからな……あんたがくれるなら、本当は痛みだっていいんだ。痛いのはキライだけど、あんたが俺を好きだと言ってくれるなら……それなら、痛くたって嬉しいんだ」 そう言って目を閉じると、生理的に浮かんでいた涙がポロリとこぼれた。 「私がお前を愛していない時など、一瞬だとてあるものか」 「……それなら、いいんだ」 そう、それなら何も怖いことなんてない。 「あんたがそう言ってくれるなら……俺……俺も、愛しているから。ジャハーン、あんただけを」 「潤……っ」 身体の奥に突き刺さったジャハーン自身が、ぐん、と勢いを増した。 「あうっ……!」 「潤、愛しい潤……お前だけだ。私をこのように燃え上がらせる者は。こんなにも、私を喜ばせる男は」 ジャハーンが俺の腰を掴んで、ゆるゆると下から突き上げてくる。 それだけで、俺の身体は甘い痺れに蕩けてしまう。 フラリ、と後ろに倒れそうになった俺をしっかりと両手で支えて、ジャハーンは勢い良く上体を起こした。その途端、ジャハーンのペニスが俺の中を鋭く抉る。 「あああッ!」 あぐらをかいたジャハーンの上にまたがるような格好になり、俺たちは更に深く繋がりあった。 「あ、あ……ジャ、ハーン……」 「潤、潤……愛している、潤」 ジャハーンは何度もそう囁きながら、俺の顔中を嘗め回した。まるでライオンや虎みたいな、大型の野獣にじゃれつかれているみたいだった。 「私は永遠にお前のものだ。お前だけのものだ」 「ジャハーン……俺の、もの?」 「そうだ。お前だけが私を所有できる。この身体、魂全てがお前の為に在る」 「全部、俺にくれるのか?」 「もとよりお前のものだ」 「それなら、いいよ……」 俺は微笑んで、ジャハーンの舌に自分の舌を絡める。 「それなら、俺も、あんたに全部やるよ」 ああ、何も考えられなくなりそうだ。あまりにもこの快感が激しすぎて。 「あんたは、俺のもので、俺は、あ……あんたのもの、だ」 何だか涙が止まらない。あまりにも気持ちよすぎて、あまりにも幸せすぎて。 涙に滲んだ視界の向こうで、ジャハーンがにっこりと笑うのが見えた。 その後、俺たちは激しく熱いその流れの中に身をまかせたのだった。 |